フィットネスクラブの これからの時代に対しての提言
FIA-NEWS8月号 (2024/8/13)
フィットネスクラブのこれからの時代に対しての提言
ポストコロナのフィットネス業界においては、新たな業態の多様化が急速に進んでいる。これからの総合型クラブも含めたフィッネス業界がより多くの生活者に活用されるようになっていくためには、お客様の潜在的なニーズをさらに丁寧に掘り起こし、サービスとして現場にて提供されていくことが重要であり、そのためには多様な経験や専門性、価値観を取り込み、具現化するプロセスが重要であるとされている。そして、その原動力となるのが、女性の一層の活躍も含めたあらゆる人材の活躍であるといえるであろう。
そこで、本セミナーでは、これからのフィットネス業界における女性の活躍のあり方にスポットを当てて、新たなフィットネスイノベーションの在り方を考える。
左から笠原氏、望月氏、井上氏、本橋氏
<パネリスト>
望月 美佐緒氏 (株)ルネサンス 取締役副社長 執行役員 ヘルスケア事業本部長
本橋 恵美氏 (一社) Educate Movement Institute代表理事・(株) E.M.I. 代表取締役
井上 トキ子氏 (一社) 日本ソーシャルキャピタル協会代表理事・(株)アージュ代表取締役・『眠りと背骨と股関節』サロン共同オーナー
<ファシリテーター>
笠原 盛泰氏 アイレクススポーツライフ(株)代表取締役会長・(一社)日本フィットネス産業協会 理事
笠原 皆さん、こんにちは。本日は、たくさんの方々にお集まりいただき、ありがとうございます。本セミナーにてファシリテートを務めさせていただく笠原でございます。これまでは、パネリストとして業界のお話をするケースが多かったのですが、元々学生時代にDJなどやっていたものですから、「あなたがやってください」と言われまして、 慣れないファシリテートを務めさせていただくことになりました。
本日は、フィットネス業界の各方面の女性リーダーとしてご活躍されているお三方をお迎えして、さまざまな切り口で、フィットネスの業界のこと、また元々皆さんはインストラクターご出身でありますから、かつての現場と現状との比較においていま求められること、さらに現在はそれぞれ専門分野をお持ちですので、そういった目線から見たこれからの業界についてなど、フリートーク形式でお話しをしていただければと思っています。もしかすると、本音の話が飛び出て、できればあまりここ以外で漏らさないでほしい……という話も聞けたら、と思っています(笑)。
それではさっそく始めさせていただきたいと思います。まずは簡単に自己紹介から。トップバッターは、皆さんもよくご存じのルネサンスの女性副社長、望月さんです。よろしくお願いします。
まずは自己紹介から
望月 あらためまして、皆さん、こんにちは。株式会社ルネサンスでヘルスケア事業本部を担当しています副社長の望月です。本日はどうぞよろしくお願いします。
私はルネサンスが1社目ではございません。まず、大学を卒業して入社したのはドゥ・スポーツプラザという会社でした。ドゥ・スポーツは、民間で一番最初にフィットネスクラブを運営した会社です。その後、専門学校講師を経てルネサンスに入りました。ルネサンスでのキャリアは、基本的には現場のインストラクター・トレーナーの仕事から入り、商品開発、教育、そして商品を標準化していく品質管理、新規事業などの仕事を経て、現在のヘルスケア事業の担当に至っています。
多岐に渡る仕事をしてきているようなイメージではありますが、基本的にはスポーツクラブの現場で培った経験をどういうふうにして社会に還元し発信していくか……。ここが私の起点ではないかなと思っています。
つい最近、私はシンガポールに行ってまいりました。ここで開催されたのは、IDEAやIHRSA、あるいはFIBOなどの欧米とはちょっと違ったb to bのフィットネスコンベンションでした。そして、ここで得てきたこと、感じたことがすごくあります。日本は課題先進国であるけれども、世界をリードできていない……。そんなことをいまひしひしと身に染みて感じているところです。それについては、後ほどゆっくりとお話しさせていただければと思います。
笠原 ありがとうございます。業界を代表する女性経営者のお一人ですが、本日はその鎧を外していただいて、「望月美佐緒」という一個人としてのお話しもぜひお聞きしたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。それでは続いて、井上さんお願いします。
井上 はじめまして、井上と申します。私は新卒でANAに入社しました。そちらで接客の基本を徹底的に叩き込まれ、雑草のように強くなければ、たくましくキャリアを積み重ねることはできないという経験をいたしました。ANAではその後、新入社員教育を担当させていただく機会を得たことが、現在のフィットネス分野における教育事業につながったきっかけになったのではないかと思っています。
先ほど、笠原さんからご紹介いただいたように、私もフィットネスインストラクター出身で、いまも現役で指導しています。運動指導歴は40年で、すでに還暦を迎えておりますが、運動をずっと続けてきたからこそいまがあるということで、現在は同じように長く運動をしたいと思っていらっしゃる女性たちのロールモデルになれるといいな、と。それが私自身の大きな励みの一つにもなっています。
ANA退職後は、ティップネスで長くアドバイザーを務め、インストラクター教育や全社員の接客教育を担当するなどして、航空会社とはまた違ったさまざまな経験を積ませていただきました。そして、50歳ぐらいまでこのアドバイザー業を中心に取り組んでまいりました。
起業したきっかけは、ちょうど10年前、プログラムがプレコリオに傾いていったときです。私は、プレコリオではインストラクターの創造性や言葉で動きを伝えていくことはなかなか難しいのではないかと懸念すると同時に、それであればもう私の出る幕はないと考えたからです。そして、一旦そこで幕引きしました。
その後、独自にフィットネスクラブに足りない顧客の問題を解決するプログラムをオリジナルとして作るようになり、それを広げていくために起業しました。それが株式会社アージュであり、Sintex ®(シンテックス)という骨盤と背骨と股関節の可動性を高めるプログラムです。
私は長く現場におりましたので、フィットネスクラブが仕事場でした。ですが、起業して変わったのが、運動を届ける先が行政であったり企業であったりなど、運動が必要なんだけれど、どこで運動をしたらいいか分からないような人たちになったことです。翻って、フィットネスクラブで展開されているプログラムは、本当に運動が必要な方々に届いているかといえば、実はあまりニーズに合っていないのではないか。それが私の強く思うところで、今日はそういったお話しができればと思っています。
また、コロナ禍に突入して、すぐにオンラインを立ち上げました。そして、これがアメリカも含めてさまざまな地域の眠れない、フィットネスクラブに通うのはちょっと面倒という方々と出会うきっかけになりました。さらに先月には、念願でもあったリアル店舗を持ちました。渋谷の東急プラザにおいて、『眠りと背骨と股関節』というズバリ内容そのものの店舗名をつけて、オープンな環境でいろんな方にふらっと運動しに来ていただけるという施設です。簡単ではありますが、私の自己紹介にかえさせていただきます。
笠原 ありがとうございます。井上トキ子さんと言えば、インストラクター業界において約40年間、現役として引っ張ってこられた大重鎮です。この業界をさまざまなかたちでリードしていただいた方なので、今日は思うところを存分にお話いただければと思います。それでは、お待たせしました本橋さん、お願いします。
本橋 あらためまして本橋恵美と申します。よろしくお願いいたします。私もエアロビクスインストラクターとして、1997年からフリーランスインストラクターとして活動してきました。2003~08年にNHKで『あなたとエアロビック』という番組をやっていましたが、私は2007~08年にレギュラーとして全国を回りながらエアロビクスを広めていたという、もうバリバリのインストラクターをしていました。その頃、YouTubeを1本だけアップしたことがあります。ステップエクササイズなのですが、当時はまだYouTubeは発展途上でしたが、30万回再生くらいされていて、そういう意味でも、有酸素運動は私にとってまさに天職だと思って、楽しくお仕事をしていました。
一方で、2003年頃には、アメリカのフィットネスクラブを視察に行ったこともあるのですが、エアロビクスのクラスが影を潜め、ピラティスやヨガ、スピニングが台頭してきていることを目の当たりにしたという経験もあります。ただ、当時の私はヨガに対してものすごくアレルギー反応があった。なぜなら、1990年代半ばに起こったオウム真理教事件の後だったので、ちょっと怖いイメージがあったからです。いまはもうそのイメージは払拭されているのでご安心ください(笑)。で、もう一つのピラティスってなんだろう、と。アメリカで流行っているものは、数年後には日本にもやって来るだろうという予測のもと、ピラティスを学び始めました。
とはいえ、国内では学習する場所がなかったので、アメリカやロンドンに行って勉強することになります。すると、そのうちにアスリートたちから指導の声がかかるようになりました。ラグビーの日本代表や当時、阪神タイガースの現役選手だった矢野さん、下柳さんから、パフォーマンス向上のためにピラティスを教えてほしいということで、アスリートをメインに指導するようになりました。
また、その頃には1冊目の著書である『スポーツに効く体幹トレーニング』という書籍も出版させていただく機会を得ることもできました。当時はまだ“体幹”という言葉は一般的ではなく、だからでしょうか、セミナーの講師として呼ばれる機会がすごく多くなったのもこの頃です。ただ、セミナーはトレーナーの方々を対象としたものというより、理学療法士などの医療従事者から呼ばれることが多いのが特徴的でもありました。そして、セミナーでは多くの質問をいただくのですが、医療用語が全くわからない……。これはまずいな、と。そこで、それを機に、スタジオで実践指導をするだけのインストラクターは卒業しようと思い、独学で医学の道に進むようになりました。そして、プロゴルファーの松山英樹くんをはじめとするアスリートに対して、パフォーマンス向上だけではなく、選手たちが怪我をしないためにはどうしたらいいかということで、怪我予防のプログラムを独自で作るようになったのです。
すると、今度は医学学会の方から声をかけていただくようになり、現在は日本を代表する7名の整形外科医とともに“スポーツ医学アカデミー”というオンラインセミナーを主宰するまでに至っています。これは、フィットネスインストラクターたちがもう少し体について正確な知識を得るため、7名のスポーツドクターから部位別に基本的なことを教えてもらおうという主旨で取り組んでいる教育事業です。
さらに、もう1つの事業として、いまの私の原点となったピラティス、ヨガの指導者育成、及び資格を発行する仕事を行っています。以上です。
笠原 ありがとうございます。本橋さんは現在、徳島大学医学部の大学院に入られて、医師の方と一緒に、特にアスリートの障害予防をついて専門的な研究をされているという、フィットネスの分野からは少し離れていらっしゃいますが、逆にいまのそういうお立場の中で、現状のフィットネスクラブ、フィットネス業界をどう思われているかというお話しをお聞きしたいと思います。……という大変ユニークなというか、それぞれに非常に高い専門性をお持ちのお三方でございます。あらためて本日はよろしくお願いいたします。
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