業界の最新情報をいち早くキャッチ!ISSUE フィットネス関連ニュース(2023年4月-日経記事より抜粋)

FIA-NEWS5月号-ISSUE フィットネス関連ニュース(2023/5/12)

 

体重を非難するのは逆効果、体重増や健康悪化のリスクにナショナルジオグラフィック

 人の体重を非難する行為は「容認されている最後のバイアス(偏見)です」と、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学教授A・ジャネット・トミヤマ氏は言う。

 研究者たちは近年、体重が重め(高体重)の人々が長く実感してきたことを論文で立証している。それは、「体重スティグマ」(高体重を恥とするらく印や偏見、差別)が社会に広く浸透し、スティグマを経験した人々が深刻な影響を受けているという事実だ。体重スティグマは、うつ状態や不安、摂食障害などの不安定な精神状態や心臓疾患など、あらゆる不調の要因となり、最悪の場合は死に至ることすらある。

 この問題は2023年に入ってさらに緊急性を帯びてきた。きっかけは1月に米小児科学会(AAP)が、高体重の子どもやティーンエージャーに対する積極的な治療を提唱し、家庭で子どもの体型に注意するよう促すガイドラインを発表したことだ。

 しかし、「ウェイト・シェイミング」(体重について非難したり恥をかかせたりすること)を受けたティーンエージャーは30代になると肥満になる確率が高いことから、このガイドラインに対する批判が高まっている。2022年4月に学術誌「Nutrients」に発表された、米国のティーンエージャー約2000人を対象とした調査結果によると、調査対象者の多くは、自分の体重について親からは主に前向きで肯定的な言葉をかけられたと感じていた。にもかかわらず、対象者の約半数は自分の体重が話題になること自体を望んでいなかった。

 自分が高体重であっても他人をウェイト・シェイミングの標的にする人は多いと、米オハイオ州にあるケント州立大学の心理科学助教メアリー・ヒンメルスタイン氏は話す。米国人の約42%はBMI(体格指数)が30以上の「肥満」に当てはまるが(米国の基準)、氏によれば、こうした人々でも他の肥満体型の人を平気でからかうことがあるという。

 高体重を注意すれば本人が減量するきっかけになると考えて、身内や医療関係者が苦言を呈することもあると、米コネティカット大学ラッド食料政策・健康研究センターの副所長レベッカ・プール氏は言う。だが、これは実際には逆効果になりうることが研究で示されている。「体重のことで恥をかかされたと感じると、長期的には体重が増加するリスクが高くなるのです」とプール氏は説明する。

 また、映画やテレビ番組で、高体重の人物をだらしなく自制心を欠いた好ましくないキャラクターとして描いているのを見て、他人の体重を批判しても構わないと思い込む人もいる。ソーシャルメディア上でも個人の体重は公然と非難の対象にされていると、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学教授A・ジャネット・トミヤマ氏は指摘する。

 これは、体重は本人が管理できるはずだという思い込みがあるからだ。しかし、実際には遺伝や、物理的および文化的な環境、腸内細菌など多くの要素が体重に関わっていることと、食事療法では長期的な体重管理が難しいことは、科学的に示されている。

「高体重は本人の怠惰な生活習慣が原因だという思い込みがあります」とヒンメルスタイン氏は指摘する。人はその気になれば減量できるという考え方によって、高体重は自制心が欠如している証拠とされてしまっているものの、実際には高体重の人の多くは何年も減量を試みたがうまくいかないのだと氏は説明する。

 

うつ状態や摂食障害にもつながる

 トミヤマ氏によれば、人々が理想とする体型はおおむね権力者のライフスタイルを反映するものであり、昔から常にモデルのような細い体型が評価されてきたわけではない。

 食料が乏しかった時代、肥満体型は裕福さの表れだった。だが20世紀には食料が豊富になったことで、理想の美しさは逆転し、肥満は望ましくない体型とみなされるようになった。

 体重スティグマは、白人だけでなく黒人やヒスパニック系の人々にも、また女性だけでなく男性にも影響を及ぼしている。2020年9月10日付けで学術誌「Annals of Behavioral Medicine」にプール氏のチームが発表した調査結果によれば、新型コロナウイルスの感染拡大前に体型を批判された経験がある若者は、そうでない若者と比較すると、コロナ禍の間にうつ状態に陥ったり過食に走ったりして、ストレスに強く反応する傾向が見られた。

 ウェイト・シェイミングは、やせ型を美化する欧米諸国の多くに広がっていることが、フランス、ドイツ、英国、オーストラリア、カナダ、米国のBMI値が高い約1万4000人を対象とした調査で確認された。結果はプール氏やヒンメルスタイン氏らによって2021年6月1日付けで学術誌「PLOS ONE」に発表された。

 注目すべきは、医学的な肥満の基準に当てはまらないにもかかわらず、体重を非難されて自分自身を恥ずかしいと感じている人が多い点だ。こうした比較的やせた人々も、不安や摂食障害を含め、健康への悪影響を経験している。

 ウェイト・シェイミングを受けている人は、医療機関の受診を避ける傾向がある。「PLOS ONE」に発表された論文では、体重スティグマを向けられた人のうち3人に2人は、医師による心ない言動を経験したことがあると回答している。しかし、定期的な健診を受けなかったり予約した受診を延期したりすると、健康状態が悪化する原因にもなるとヒンメルスタイン氏は話す。

 本人が非難を覚悟で勇気を出して受診しても、原因が他にある可能性が高いにもかかわらず「体調不良の原因は高体重」と医師から決めつけられてしまう場合が多いとプール氏は指摘する。

 

ウェイト・シェイミングがもたらす悪循環

 ウェイト・シェイミングの影響で、普段はしないような食べ方をしてしまうことは珍しくない。実験の結果、自分を高体重だと思う女性が体重スティグマを植え付けられるような記事を読んだ場合、対照グループよりも間食が多くなる傾向が見られた。この結果は2013年12月1日付けで学術誌「Journal of Experimental Social Psychology」に発表された。

 また、プール氏とヒンメルスタイン氏らが医学誌「Clinical Diabetes」に発表した研究では、本人が体重を恥と感じるほどのウェイト・シェイミングを日常的に受けている2型糖尿病の患者の場合、より過食しやすい傾向があることが明らかになっている。

 また、ウェイト・シェイミングを向けられる人々はあまり運動をしない傾向がある。このことは、他の研究者たちも報告している。「自分の体型を笑いものにされると、ぴったりしたスポーツウェアに身を包んでジムに行く気にはならないでしょう」とトミヤマ氏は言う。

 トミヤマ氏は、ウェイト・シェイミングが悪循環を引き起こすと考えている。他者から否定されたと感じると、脳はストレスホルモンである「コルチゾール」を分泌するよう副腎に指示する。コルチゾールが分泌されると、食欲が旺盛になり、特に脂肪や糖分が多い食べ物が欲しくなる。また、体はコルチゾールを合図にして、腹部に脂肪を蓄える。

「祖先の時代には、このストレス反応が走ったり戦ったりするエネルギーになりました」とトミヤマ氏は説明する。しかし、現代では、体重が増加してさらに屈辱を受ける可能性が高まるだけだ。

 研究者たちは、社会の体重バイアス(体重に関する偏見)を減らす方法を見つけようと取り組んできたが、いまのところ成果は上がっていない。「他のスティグマを植え付けられたグループに効果があった介入策も、体重バイアスには効果が出にくいことが判明しています」とプール氏は話す。

 例えば、肥満の背後には複雑な要因があることを加害者側に啓発しても、一時的な効果はあるが長続きはしないという。異なる人種間の交流は人種バイアス(人種に関する偏見)の軽減に役立つが、同じことをしても体重バイアスには効果が薄い。大半の人は、すでに身近に多くの高体重の人がいるからだろうとプール氏は考えている。

 社会規範が大幅に変化しない限り、特効薬はないというのがプール氏の見方だ。「日々の生活には、(体重)スティグマに疑問を抱くよりもむしろスティグマを強化するメッセージがあふれています」とプール氏は言う。「本当にスティグマを減少させたいのなら、システムをもっと大きく変えなければなりません」

文=MERYL DAVIDS LANDAU/訳=稲永浩子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2023年3月24日公開)

 

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