一般社団法人 日本フィットネス産業協会

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フィットネス業界のB to Bへの第一歩、顧客(フィットネス事業者)を知ろう

FIA-NEWS12月号(2025/12/15) TOPICS記事より

SPORTEC in 東京 FCMセミナー報告
フィットネス業界のB to Bへの第一歩、顧客(フィットネス事業者)を知ろう

 日本フィットネス産業協会主催のFCMセミナーが開催され、フィットネス事業者とサプライヤー間の連携強化を目的とした議論が行われた。
パネリストとして、JR東日本スポーツの森氏とSportipの高久氏が参加し、フィットネス事業者の経営課題や事業者とサプライヤー間のギャップなど、業界の現状と課題、そして新しいビジネスモデルの模索について深く掘り下げた。

2025年7月30日(木)、15:00〜16:30 会場:東京ビッグサイト

《パネリスト》
※正会員の立場から
森 直広氏 JR東日本スポーツ(株)営業企画部担当部長

※賛助会員の立場から
高久 侑也氏 (株)Sportip 代表取締役CEO

《ファシリテーター》
韮沢 靖彦 FIA FCM検定事務局

 

韮沢 私ども日本フィットネス産業協会には、もともと正会員企業としてフィットネス事業者、賛助会員企業としてサプライヤーの皆さん、それぞれ約100社ずつ会員になっていただいております。サプライヤーの皆さんは、フィットネス業界を超えて、または業界の中でも企業を超えてビジネスをされている。そのような力と、かつ知見のある皆さんがお揃いになっていると考えています。ただ、残念ながら、正会員企業である事業者との関係が強固なものといえるかというと、少し不十分だと考えております。そこで本日は、いわゆるフィットネス事業者を主な対象にしたセミナーではなく、事業者を掘り下げ、サプライヤーの皆さんに対してのセミナーを開催させていただきます。本セミナーを通じて、一歩前に進む機会になればと願っております。どうぞ最後までよろしくお願いいたします。

 今日の内容は、まずパネラーの自己紹介、次にテーマである顧客ニーズについてお話をしたいと思います。さらにFCMのご紹介、事前にサプライヤーの方と事業者の方にお答えいただきましたアンケートの分析と考察についてお話をさせていただきます。ここまでが講演の内容になります。それらの内容を踏まえて、パネラーの方にフィットネス事業者の顕在ニーズまたは潜在ニーズに関してのコメント、アンケートだけではわからない、より具体的な内容についてお話しいただきたいと考えております。まとめの後、ご質問があれば質疑応答をして終了と考えております。

 では、パネラーの皆さまに自己紹介をお願いいたします。


森直広氏とJR東日本スポーツについて

 皆さん、こんにちは。本日はありがとうございます。席が空白だったらどうしようと思っていましたけれど、満員のステージで安堵いたしました。それでは自己紹介をさせていただきます。森直広と申します。出身は大阪府高槻市で、ちょうど京都と大阪の梅田の真ん中にあります。ですから、双方のフットネスクラブもたくさんあります。この業界には1989年に入社し20年近く働いて、2009年から現在のJR東日本スポーツにお世話になっております。主に営業企画ということですが、どちらかというとお店の統括的な仕事、エリアマネージャーなどを長くやってきましたので、お客さまにご満足いただいたり、集客するということにやりがいを持ってやってきました。

 今回お声がけいただいて、我々事業者側と、サプライヤー側の高久さんで改めて考えさせていただく機会になりました。本日お話しすることは、「自分でやったらどうなるのか?」ということです。理想と現実としては、「フィットネスクラブはこうするべきじゃないかな」ということが中心になると思います。

 趣味は近い方がいらっしゃったら親近感を持っていただけるかもしれません。私はずっと野球をやっていまして、阪神タイガースの大ファンです。大阪人にとっては文化みたいなものです。もう1つの趣味は、サウナです。サウナが好きな人のことを『サウナー』といいます。私は週2回はトレーニング、週2回はサウナに入ります。「こんなジムにしたい、こんなサウナにしたい」というのが仕事につながっていますので、楽しみながら仕事をさせていただいております。

 次は会社の紹介になります。JR東日本スポーツの本社は、東京の大塚にあります。池袋の近くですね。大塚の駅にJRビルがありまして、その中で仕事をしております。名前の通りJR東日本のグループ会社になります。1978年に会社が発足し、2018年にJR東日本スポーツ株式会社となりました。店舗数でいくとまだ少ないのですが、皆さんがご存じの通り、新宿とか上野にあります総合型のJEXERは18店舗。小型のLightGymやe-スポーツ、都内のアトレの中にリラクゼーション、マッサージのお店も26店舗あります。開業事業ではPlatinaGymというブランド名で8店舗。他には法人事業、部活支援事業なども最近始めています。これらを合わせると、店舗数はそこそこにはなると思います。

 企業理念としては、『私たちは、体とココロの健康づくりに貢献する、元気で活き活きとした企業を目指します』ということで、私も入社時に、この理念を気に入りました。人って難しく考えがちですが、体とココロの健康がフィットネスの意義かなと思っています。

 最後に、『ASK』という行動指針があります。安全のA、清潔のS、感動を呼ぶスキルのK。我々はハードのサービスとヒューマンのサービスとソフトのサービスということで、店とプログラムと人、その3つがあってこそいい店を作ることができるという行動指針のもと、仕事をしております。以上が自己紹介です。

韮沢 ありがとうございました。続きまして、高久さまよろしくお願いいたします。

 

髙久侑也氏とSportipについて

高久 皆さん、はじめまして。Sportipの高久と申します。よろしくお願いします。私は長く野球を続けてきましたが、胸郭出口症候群による手の血行障害で手術を受け、完治に至らず野球を断念しました。この経験をきっかけに筑波大学へ進学し、テクノロジーで指導のあり方を変えたいと考えて起業し、現在に至ります。

 当社は筑波大学発のベンチャーとして、大学のデータや研究成果を活用しながら独自のAI技術を開発・提供しています。トレーニングやリハビリスポーツに広く適用できるアプリの研究開発を大学と共同で進め、京都大学や東北大学など分野に強みを持つ研究者の方々と連携し、新たな知見をサービスへ実装する取り組みを継続しています。

 サービスについて簡単にご紹介します。姿勢分析アプリ「Sportip Pro」は、スマートフォンやタブレットで撮影するだけで、約1秒でその方の課題を可視化します。タイプ分類やスコアを提示し、どの筋肉が硬く、どの筋肉が緩んでいるかを確認できます。将来の変化の見立てや適した運動メニューも提示でき、結果はQRコードでお渡し可能です。ウエストサイズ測定、運動メニュー提示、スクワットのフォームチェックなど多様な機能を備え、専門知識のない方から熟練のトレーナーまで使いこなせるプロダクトを目指しています。

 以上、簡単ではありますが自己紹介と会社紹介でした。本日はよろしくお願いします。

 

顧客ニーズを正しく認識するためのコミュニケーション

韮沢 それでは、顧客ニーズについてお話したいと思います。先ほど申し上げたように、顧客というのはサプライヤーの皆さんにとっての顧客ということで、事業者の顧客ニーズを知る、ということでお話をさせていただきたいと思います。まずポイントですが、ニーズを知るということについて。コミュニケーションの落とし穴、法人顧客が求める共有価値やコミュニケーションのパワー、顧客のインサイトなど、これらの潜在ニーズについてお話しさせていただきます。

 サプライヤーの皆さんは退会率という言葉を聞かれたことがあると思います。おそらくどの事業者にも身近で非常に関心が高い項目ですが、実際にはどのようなものなのか。これは今月の退会数を今月末の会員数で割ったものです。このように、事業者にとって非常に関心が高いことに関して、サプライヤーの皆さんが実は知っているようでよく知らないということがわりとあるのかもしれません。そのような部分をどのようにして乗り越えて、一緒に仕事をしていけばいいのかということについて、ニーズをつかんでいくことについてお話ししたいと思います。

 ニーズとは何かというと、事業者が課題として抱えていること。それぞれの業態によって違いますし、サイズによっても違います。見極めるポイントは、そこにお金をかけているか、そして行動しているかということ。例えば、イメージアップを図りたいとか、SDGsなどさまざまな課題について考えているけれど、実際にその企業・店がどこまで動いているか、どの程度お金をかけているか。ここにニーズが見えてくるんです。お金をかけて実際に動いていても、効率が悪かったり、本当にこれは必要なのかと思っていたりすることもあります。それは、教えてもらわないとわからない。ただ、相手との関係ができていないと、そんな話題にもなりません。本音で話すということができない。必要なのは、コミュニケーションの落とし穴に入らないということです。

 具体的には、正論を言っても、相手の感情の壁が厚くなるだけということはよくあると思います。「こうした方がいいのでは」とアドバイスをしたとしても、タイミングによっては、相手は話をしてくれなくなる。共鳴ではなく、共感が必要です。私もよく失敗するのですが、話を聞いて「そうですか、私も実は昔こんなことがあって……」と自分の話を始めてしまうと、自分は相手に共鳴しているつもりだけど、共感できていない。大切なのは、共感すること。相手が考えていることについて共感して、もっと話をしてもらうということが、感情の壁を乗り越えること。それがコミュニケーションの落とし穴に入らないことに通じます。

 そしてもう1点。法人顧客が求める価値には、以下の6つが必ずあります。生産性のアップ、時間の改善、CSRの向上、コストダウン、リスク回避、付加価値のアップ。これを否定する企業はほとんどないと思います。ただ、これらを眺めているだけでは本当のニーズはわかりません。価値の裏側にニーズがある。価値を理解していないと、ニーズに近寄ることができません。ニーズをつかむために必要なのはコミュニケーションです。

 当たり前ですが、お客さまが知っていることと、知らないことがあります。最もビジネスになり得るのは、お客さまが知らなくて私たちが知っていること。このようなところにビジネスチャンスがあります。ただし、いきなりお客さまが知らないことから話し始めても、相手はなかなかピンときません。「そうなんですか」と終わってしまう。そうではなくて、ビジネスでのコミュニケーションで上手な方が取り入れているのは、お互いに知っていることから話し始めるということ。自分が知っていることで、相手はどの辺まで知っているのか探って境界線の少し先の辺りで話を進めていくと、相手にも分かりやすく、ビジネスにつながる上手なコミュニケーションが取れると思います。

 いま境界線と申し上げましたが、境界線を模索する範囲が広い方が相手のニーズをつかみやすい。そこで必要なのは、お客さまのことをよく知っているということ。先ほどの退会率もそうです。例えば3000人の会員さんがいるフィットネスクラブで、退会率が3.5%だったとします。これは標準的な数字です。3000×3.5は約100人ですから、毎月100人くらいの方が辞めてしまうということ。辞め続ければ当然会員が減り、収入も減ります。コストはほぼ固定費ですから、利益が減って、赤字になってしまうかもしれません。そのような危機感をはらんでいるのが退会率で、ここにこだわるのは事業者側の心理としては当然です。

「何となく知っている」ということだけでは、そこまで迫れないですよね。そう考えると、確かに100人というのは結構大きい。「1%にすればいい」と言っても、どうやって1%にするのかという道筋は、なかなか見つかりません。B to B to Cのお客さまが決めることですから。今お話したのは一例ですが、お客さまのニーズをつかむためには、お客さまのことを知ることがどれほど必要かということをお伝えしたいのです。そのために、私どもがセミナーでお話しております、FCMというものをご紹介したいと思います。

 

FCMを通してフィットネス業界を知る

韮沢 FCMとは、フィットネス業界で唯一のマネジメントに関する国家資格です。1、2、3級とあります。サプライヤーの皆さんにとって、使いやすいと思われる点をピックアップすると、6つあります。1つ目はフィットネス業界について知る。2つ目は、提供している商品やサービスについて知る。3つ目はB to B to Cのお客さまである顧客について知る。4つ目はスタッフの業務、組織について知る。先ほど、「コストはほとんど固定費です」と言いましたが、5つ目は利益構造について知る。6つ目は事業上のリスクについて知る。これらについて、理解を深めることができます。つまり、フィットネス事業者について理解を深めることができるのです。

 具体的には、FCMを通してフィットネス業界のどのようなことが知ることができるのでしょうか。ごく一部を紹介しましょう。タイプ別の新規施設開設数で今どこが伸びているかというと、24時間型パーソナルジムが10年前から2023年で20倍になっています。きっと増えているだろうと皆さんも感じておられたでしょうけれど、数字に出すと少し驚きますよね。一方で、総合型は17件から12件に微減しています。ジムスタジオ型というものが一時ありましたが、今は伸びていません。逆に、ピラティスだけ、ヨガだけ、というスタジオ型が10倍に増えています。これはごく一部です。FCMでは、このようなことが学べるのです。

 また、B to B to CのCであるお客さま、顧客を理解するということでいうと、FCMでは『カスタマージャーニー』という考え方を紹介しています。ごく一部ですが、入会前に認知をする時期、探索をする時期、比較検討する時期、入会する時期、利用する時期、継続している時期、やめる時期というフェーズがあります。それぞれのフェーズごとに行動と思考と感情があります。代表的な考え方はそこに示されていますが、このような顧客心理があるということを理解するのには意味があります。

 このようなことをFCMでは国家資格としてレベル別かつ体系的に整理していて、公式テキストの中には、今申し上げたことは全て載っています。ごく一部、半ページにも満たない内容を紹介しましたが、このようなことをご理解いただけるといいかなと思います。

 

事業者とサプライヤー間の認識ギャップ

韮沢 ここまでは講演のようなものでしたが、先ほど申し上げたように、このセミナーの前にアンケートを取りました。それについて今からご説明いたします。7月1日から28日までにGoogleフォームでお答えいただいております。最終的にはもう少し増えたのですが、この集計段階では41になります。

 事業者の経営課題で一番上に上がっているのが、会員の集客力です。新しい会員さんを何とか増やしたいということが、事業者側の圧倒的な経営課題のNO.1になっています。新しい商品で売上を作っていきたいというのが2番目、そして3番目が継続率です。

 次の質問が、課題解決に向けて参入会員とサプライヤーの方に取り組んでいただきたいこと、期待することでした。経営課題とマッチするように、新しいサービスや商品を提供してほしいというところが一番に上がってきています。その次が、コストパフォーマンス。これは、提供されるものが成果につながるかどうかということをきちんと示してほしい、ということがニーズになっているということです。

 次に、外部からのサービスや商品を購入するかどうか決定するポイントは何か? という質問をしました。まずは経営課題への貢献度、自分たちが経営課題と思っていることに対する貢献度がNO.1。その次がコストパフォーマンスでした。外部からのサービス製品を知るための媒体として一番多かったのは、展示会という結果でした。少し意外だったのですが、スポルテックのような展示会で新しい商品サービスを認知している事業者さんは多いようです。そして、紹介。この2つが圧倒的です。それ以外もありますが、展示会と紹介の2つが事業者さんが認知する機会としては大きいようです。

 次は、サプライヤーさんに問うアンケートです。まずは本社の対象顧客を聞きました。フィットネス事業に関わっていこうというところですから、95%がフィットネス事業者を顧客の対象にしているということでした。これはある意味当然かもしれませんが、それ以外にも介護事業、プロスポーツ事業、病院、治療院、学校教育、一般消費者など幅広く業界を超えて顧客をお持ちになっているということも分かります。

「御社の製品サービスが有効となるフィットネス事業者のニーズを選択してください」という質問では、一番多かったのが会員の継続率、2番目が会員1人当たりの売上高、3番目がスタッフ1人当たりの生産性ということでした。「御社が大切にしている取組事項を選択してください」という質問では、1番目が技術的な提案力や課題解決力、2番目が担当者のスピーディな対応と専門性となっています。

 詳しく見てみましょう。事業者の経営課題の項目については、フィットネス事業者の1位は会員集客力ですが、サプライヤーさんは会員継続率を1位に挙げています。2位と3位も項目が違います。経営課題と思われているところが、事業者とサプライヤーでは異なるということですね。そしてサプライヤーへの重視項目としては、経営課題への貢献度効果、投資回収が1位、2位。サプライヤーさんは技術的な専門力、スピードなどを重視している。ここも少し異なるということでした。

 現状としては、特に経営課題に対して事業者とサプライヤーにズレがあるということです。これが今の実態なのです。つまり、強固な関係が築けていないということがここにも表れていると思っています。フィットネス事業者が外に向かっている感じで、サプライヤーさんは中へ——継続や生産性というところに向かっている。これはどちらが正しいとかではなく、ポイントが違うということです。

 最終的に大切なのは、それぞれの良さや持っているものをどのようにして合わせることができるかということ。まずは一緒に経営課題を特定する必要があります。さらに、その解決策を共同で考え、それを基に検証まで行う。これが大切だと思います。シンプルな昔ながらのサイクルですが、このようなことがつながっていって初めて、強固な関係が築かれるのではないでしょうか。新しい商品を提案して導入してもらったら、そこで「はい、しばらくお会いすることはないでしょう」ということでは、強固な関係はなかなか作れません。

 私がベンチマークしている有能な企業は、いわゆる営業利益率50%と言われています。なぜそれが可能かというと、新しい商品の経営課題をお客さまに聞き、一緒になって解決策を具現化する。実際に稼働している状況を見に行き、「もっとこうしましょうか」という話を定期的に行っているんです。そうすると、もう他から見積もりも取らないのです。そことずっと一緒に事業を行っていくというビジネスモデルを確立している。非常に強い信頼関係ですよね。このような関係を、フィットネス事業者とサプライヤーでぜひ作っていきたいと思っております。ここまでがアンケートの分析も含めた説明です。

 ここから先は、パネラーの皆さんと、テーマに沿ってフィットネス事業者のニーズについて話をさせていただきます。事業者が抱えている経営課題と解決方法、また外部の力を必要としていること、サプライヤーとしての協力などについて、ご意見をいただきたいと思います。

 まず初めに、事業者の森さまから、現状ではこのような経営課題と解決法があるとして、サプライヤーさんの力をどのようにお借りできるかというお話をしていただきたいと思います。

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