FIA-NEWS2月号-ISSUE フィットネス関連ニュース(2024/2/13)
テニス風新球技
ジワリ普及
「パデル」や「ピックルボール」といったテニスに似たラケット球技の愛好者が日本でも増えている。ラケットが短くて初心者でもボールを狙った方向に返しやすい。動く範囲がテニスほど広くなく、老若男女が楽しめる。米起業家イーロン・マスク氏ら著名人も関心を示しており、日本でも急速に広がる可能性がある。
「ラケットを使ったスポーツは未経験だったけど楽しめた」。パデルの体験レッスンを受けた30代の男性は満足げに語る。
パデルは四方を強化ガラスと金網で覆われたコートの中で、硬式テニスに似たボールを2対2で打ち合う。ラケットは板状で短いため、手のひらで打つような感覚となり、初心者でもボールを狙った方向に飛ばしやすい。ラケットの価格は1万~2万円程度だ。
サーブはワンバウンドさせたボールを腰より下から打つので相手コートに入りやすく、9割以上の人が体験して1時間で試合ができるようになるという。壁に跳ね返って減速したボールを返球してもいいので、好ショット一発では決まりにくい。日本パデル協会の玉井勝善副会長は「中途半端なスマッシュは相手のチャンスボールになりかねない」と話し、テニス以上にショットのスピード頼みでない多様な戦術が重要と強調する。
パデルのコートはテニスよりも小さい上に、強化ガラスと金網で覆われているため、隣のコートと間隔を空ける必要がない。テニスコート1面の敷地に最大3面のパデルコートを設置できるため、収益性が高い。駐車場よりも面積当たりの売り上げが多いとの試算もあり、駐車場やテニスコートをパデルコートに改修する例が増えている。
イタリアやスウェーデンでは2015年ごろにコート数が50程度だったのが、10年弱で5000以上となった。スペインではサッカーに並ぶ国民スポーツとなるなど、愛好者が急増した。サッカーのメッシ選手など多くのプロスポーツ選手が楽しんでいる。日本のコート数は現在50弱だが、新設計画が相次いでおり、玉井氏は「30年までには1000コートを突破する可能性もある」と話す。
専用コートがなくても体育館などで楽しめるのがピックルボールだ。卓球よりも少し大きなラケットで、穴が空いたプラスチックのボールを打ち合う。バドミントンと同じ広さのコートで、床のラインやネットもバドミントンのものを転用できる。
サーブのリターンだけでなく、そのボールを打ち返す時も一度バウンドさせないといけない。ネットから約2メートル以内の至近距離ではボレーが禁止されており、ラリーがつながりやすい。相手に力強く打たれた場合も、ボールが減速するため返せることも多く、白熱した展開を楽しめる。
米国では屋外に多くの専用コートがあり、米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏が愛好者を自認するほか、マスク氏もX(旧ツイッター)で「テニスより手軽にできる」と投稿した。日本ではトヨタ自動車の豊田章男会長らが体験している。テニスで広いコートを走り回るのが難しくなってきたシニア層でも楽しめる生涯スポーツとして、注目度が高まっている。
日本では体育館のバドミントンコートを使って楽しまれていることが多い。公式ラケットも1本7千円程度から買うことができ、日本ピックルボール協会の小川英一郎副会長は「日本でもすでに約70のサークルがあり、スクールも増えている」と話す。
プレーする場所を選ばないのが、テニスとバドミントンを融合させたクロスミントンだ。バドミントンのシャトルを小型化したような「スピーダー」を、5・5メートル四方の自分のエリアの地面につけないよう、テニスに近い距離感で打ち合う。ラケットは2本セットで5000円程度のものもあり手軽に始められる。
お互いのエリアは約13メートル離れている。相手との間を仕切るネットがなく、ラケットとスピーダー、エリアの目印をつけるマーカーだけ用意すれば、本格的な試合ができる。重いスピーダーを使えば、風の影響を受けにくく、屋外でもプレーできる。
大会は60歳以上まで年代別に分かれており、中高年でも始めやすい。メジャースポーツに比べれば競技人口も少なく、日本クロスミントン協会の笠原標理事長は「ラケット競技未経験で、始めて1、2年で世界選手権に出場した人もいる」と話す。
28年のロサンゼルス五輪の競技にスカッシュが選ばれるなど、ラケット球技全体に追い風が吹いている。日本では長く、テニスやバドミントン、卓球とそれ以外のラケット球技の普及度に差があった。新興のテニス風球技は取り組みやすいものが多く、勢力図が変化するかもしれない。
(2024年1月6日/日経)
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